不朽の幻想漫画
作品の舞台となるのは、「アタゴオル」と呼ばれる架空の地域。そこでは擬人化された猫たちが文明を築き、時に人間や不思議な生物たちと交わりながら、詩的で時に不条理な日々を生きている。連載形式は『アタゴオル物語』『アタゴオルは猫の森』『アタゴオル玉手箱』などに分かれ、いずれもアタゴオル世界を舞台とした連作短編形式である。中心人物は「ヒデヨシ」と呼ばれる食いしん坊で傍若無人な猫であり、彼の破天荒な行動が、幻想的かつユーモラスな物語を紡いでいく。（サザエさんで言うカツオのポジションである。）
『アタゴオル』の最大の魅力は、幻想的な舞台と、現代社会への批評や哲学的問いを自然に融合させている点である。アタゴオルの猫たちは、しばしば人間社会の縮図として描かれ、そこには文明批判や環境問題、戦争、孤独といった現実の影が映り込む。また、ますむらひろしの絵は緻密でありながら柔らかく、幻想性と生命感にあふれている。加えて、随所に挿入される詩的な台詞やモノローグが、物語に深い余韻を与える。彼の作品は「読む」ものというより、「味わう」ものである。
『アタゴオル』は、漫画という枠を超えた詩的世界である。そこでは「猫」と「人間」、「幻想」と「現実」、「笑い」と「哲学」が不思議なバランスで共存している。ヒデヨシの自由な魂に導かれて、読者は自らの常識や倫理観を軽やかに乗り越える旅へと誘われる。『アタゴオル』は、「世界はもっと自由であっていい」と静かに語りかけてくる、永遠の自由の書である。
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