人間とは何か
『寄生獣』は、人間に寄生する未知の生物と、それに取り込まれた少年・泉新一との奇妙な共生関係を描く。倫理、アイデンティティ、生物としての人間の在り方を問う深淵なテーマを内包しながらも、スリリングな展開と緻密な心理描写で読者を惹きつける作品である。
ある日、地球に突如として現れた謎の寄生生物。それらは人間の頭部に侵入し、脳を乗っ取ることで完全に人間社会に紛れ込む。主人公・泉新一も寄生されかけるが、寄生体は頭部への侵入に失敗し、代わりに右手と一体化する。彼はその寄生体を「ミギー」と名付け、奇妙な共生生活を始める。新一は次第に、他の寄生生物との戦いに巻き込まれていく。やがて彼の身体と精神はミギーの影響を受け、以前の「人間らしさ」を失っていくようになる。だが同時に、人間社会そのものの在り方や、人間とは何かを問い直す契機ともなっていく。
ミギーを通して描かれるのは、人間が「生態系の頂点にいる」という無意識の傲慢である。寄生生物という異物の視点から、人間社会がいかに暴力的で矛盾に満ちているかが炙り出される。
『寄生獣』は、単なるバトル漫画でも、異形の恐怖を描くだけのホラーでもない。そこにあるのは、私たち自身が「何をもって人間と呼ばれるか」を問う、鋭く、静かで、力強い問いかけである。今なお色あせない普遍性を持ち、何度読んでも新たな発見を与えてくれる名作である。